「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は、オンライン診療を実施する医師や医療機関を対象に厚生労働省が策定した指針です。
オンライン診療を安全で適切に実施するための基本概念や基準、手順等が記載されています。
本記事では、
・オンライン診療の実施を検討している
・厚生労働省が定めるルールについて知っておきたい
と考えていらっしゃる先生に向けて、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」における要点や、オンライン診療に関してよくある質問をご紹介します。
厚生労働省の「オンライン診療ガイドライン」とは?
自宅等で受診できる「オンライン診療」
オンライン診療とは、スマートフォンやタブレット、パソコンなどを使って、自宅等にいながら医師の診察や薬の処方を受けることができる診療です。
オンライン診療を活用することによるメリットには、以下のようなものがあります。
- 利便性が高い (自宅や職場等、距離の長短を問わずあらゆる場所から受診可能)
- 時間を有効的に使用できる (病院への往復、病院の待合室での待機の必要が無い)
- 子育て中の親などオンライン診療ではないと受診できない患者がいる
引用:内閣府「オンライン診療のメリット・デメリット」
コロナ禍を契機に普及、「初診」からの活用も解禁された
日本でも新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まった2020年は、オンライン診療にとって大きな転機となりました。
厚生労働省は同年4月、多くの患者が医療機関への受診が困難になりつつあることに鑑みた時限的・特例的な対応として、初診からのオンライン診療を解禁しました。
参照:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(令和2年4月10日)
この流れを受けた2022年1月には、初診からのオンライン診療が恒久的な制度として認められ、現在に至っています。
適切な運用のため、厚労省がガイドラインを作成
オンライン診療の活用においては、多くのメリットが期待できる一方で、対面診療よりも情報が限定されてしまうことも勘案した上で実施されることが求められています。
そこで厚生労働省は2018年3月に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、オンライン診療のガイドライン)を策定しました。
このガイドラインでは、オンライン診療を実施するにあたっての基本概念や用語の定義、無診察治療等の禁止や医療提供場所、情報セキュリティなどの関係法令等が記されています。
参照:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
「オンライン診療のガイドライン」で医師が押さえるべき4つのポイント
オンライン診療のガイドラインでは、オンライン診療を実施する医師や医療機関が守るべき「最低限遵守する事項」が示されています。今回は、とくに重要なポイントを4つご紹介します。
ポイント①初診は、原則「かかりつけ医」が行う
オンライン診療の初診は、原則「かかりつけ医」が担当するものとされています。
この背景には、オンライン診療では、患者との信頼関係の構築が難しい点や、詳細な症状の確認が難しい等の理由が挙げられます。
なお、ここでいう「かかりつけ医」とは、すでに対面診療を重ねており、患者との直接的な関係が存在する医師のことを指しています。
「かかりつけ医」以外の医師については、
- 医学的情報が十分に把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合
- 初診の前に医師が診療前相談を行い、医師が可能と判断し、医師と患者が合意した場合
も、初診からオンライン診療を行うことが可能です。
引用:厚生労働省「第18回 オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」
ポイント②基本的に、ビデオ通話で実施する
触診や細かな視診等ができないオンライン診療で医師が得られる情報には、限りがあります。
そのため、「医師は、直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状態に関する有用な情報を得られるよう努めなければならない。」という考えのもと、リアルタイムの視覚・聴覚の情報を収集できる情報通信手段(つまり、ビデオ通話)を用いることと明記されています。
なお、画像や文字等による情報のやりとりを「補助的な手段」として活用することは可能ですが、それらのやりとりのみで診療を完結することはできません。
ポイント③患者・医師の合意と、治療計画書の作成が必要
医師の都合による一方的な実施を防ぐ観点から、オンライン診療の利用には患者側からの希望が不可欠です。
加えて医師の判断がなければオンライン診療は実施できないため、実際には双方の合意が求められます。
また双方の合意を確認する手段の一つとして、診療計画書の作成も必要です。
診療計画書では、具体的な診療内容(疾病名、治療内容等)や実施頻度やタイミング、急病急変時の対応方針等の必要項目を記載します。
日本医師会では、オンライン診療についての同意書や診療計画書のサンプルを公開していますので、参考になさってください。
参照:日本医師会「オンライン診療入門~導入の手引き~【第1版】」
ポイント④診察を行う医師の所在は、医療機関に限定されない
オンライン診療を実施する医師は、必ずしも医療機関に所在する必要はありません。
電子カルテを使用できる環境や患者のプライバシーを確保し、心身状態に関する情報を得るために適切な環境を確保できれば、医師の自宅をはじめとする医療機関外でも診療を行うことができます。
そのため、アルバイト先への移動時間を短縮したい医師や産休や育休中の医師等を中心に、オンライン診療のアルバイト案件を希望する医師は非常に多くなっています。
オンライン診療のための「医師が常駐しない診療所」が今後増えていく
また厚生労働省は2023年5月、医療資源が限られる「へき地など」に限り、医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設(公民館や郵便局など)を認める通知を発出しています。
その後2024年1月には、へき地に限らずオンライン診療を行う「医師非常駐の診療所」の開設を可能とする通知も発出しました。
参照:厚生労働省「特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」
これを受け、総務省では郵便局内にオンライン診療を実施できる診療所に関する実証実験を進めています。
参照:総務省「令和5年度「郵便局等の公的地域基盤連携推進事業」における「へき地の郵便局でのオンライン診療」に関する実証事業の実施」
今後はオンライン診療がますます普及し、オンライン診療を実施する医師求人も増えていくことが推察されます。
オンライン診療をするなら、ガイドラインは必読
オンライン診療のガイドラインには、上記以外にもオンライン診療を行う医師が守るべき項目がくわしく示されています。
日本医師会のホームページでも、オンライン診療を実施するすべて医師に向けて、オンライン診療のガイドラインを「必読」と表現されていますので、内容を確認しておくことをおすすめします。
参照:日本医師会「オンライン診療について」
オンライン診療をする医師からよくある質問
最後に、オンライン診療のアルバイトを検討する医師から多く寄せられる質問と回答をご紹介します。
Q:オンライン診療をするには、資格が必要ですか?
A :厚生労働省が定めるオンライン研修を受講する必要があります。
オンライン診療には、従来の対面診療とは異なる要素が複数存在します。
そのため厚生労働省では、オンライン診療の適切な実施方法や注意点を学び、患者の安全性を確保するための知識と技術を習得する「オンライン診療研修」の受講を義務づけています。
オンライン診療の実施に当たっては、医学的知識のみならず、情報通信機器の使用や情報セキュリティ等に関する知識が必要となる。
このため、医師は、オンライン診療に責任を有する者として、厚生労働省が定める研修を受講することにより、オンライン診療を実施するために必須となる知識を習得しなければならない。
※ 2020年4月以降、オンライン診療を実施する医師は厚生労働省が指定する研修を受講しなければならない。
引用:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
研修は以下の5科目からなる講義動画(各15~40分程度)を視聴する、e-learning形式です。
・オンライン診療の基本的理解とオンライン診療に関する諸制度
・オンライン診療の提供に当たって遵守すべき事項
・オンライン診療の提供体制
・オンライン診療とセキュリティ
・実臨床におけるオンライン診療の事例
研修は、登録後インターネット上でいつでも無料で受講が可能となっています。
各科目につき10問の演習問題に全問正解すると、「厚生労働省指定オンライン診療研修修了証」を入手できます。
参照:厚生労働省「オンライン診療研修実施概要」
なおアルバイトでオンライン診療を実施する場合も、上記研修を受講する必要があります。
Q:オンライン診療に関する情報は、どこで入手できますか?
A:厚生労働省のオンライン診療に関するページをご覧ください。
オンラインのガイドラインは、状況等に応じて更新されることが今後もあり得ます。
よって厚生労働省のサイトを定期的に確認し、新しい通知や更新情報に注意を払うことが重要です。
参考:厚生労働省「オンライン診療について」
A:初診に適さない症状や十分な検討が必要な薬剤も確認を
一般社団法人日本医学会連合では、オンライン診療の初診に適さない症状や初診での投与について十分な検討が必要な薬剤を示しています。
安全で適切なオンライン診療を実施するために、内容を把握しておくことをおすすめします。
参照:一般社団法人日本医学会連合「オンライン診療の初診に関する提⾔」
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