アルバイトを辞めたいと考えたとき、退職の意向を伝えるタイミングや手続きについて迷ってしまう方は多いのではないでしょうか。
医療機関は正当な理由なくアルバイト医師を解雇できず、解雇には客観的・合理的な理由が必要です。解雇には30日前の予告が必要で、有期雇用契約の場合、期間中の解雇はさらに厳しく制限されます。一方、医師が退職を希望する場合、無期雇用契約では2週間前の申告で退職可能ですが、有期契約では契約満了まで働くのが原則です。契約時の退職条件の確認が重要です。
本記事では、医師が円満にアルバイトを辞めるために知っておきたいルールや手続き・マナーについて、特定社会保険労務士の舘野聡子先生にお話を伺います。
医療機関の都合による、アルバイト医師「解雇」のルール
編集部:まず、使用者である医療機関側からの解雇について教えてください。
医療機関の都合で、アルバイト医師を正当な理由なく解雇することはできない
舘野:使用者からの申し出によって一方的に労働者を辞めさせることを解雇といいますが、これは使用者がいつでも自由に行えるものではありません。
労働契約法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあります。
つまり解雇にあたっては、客観的に合理的な理由が必要になるということです。
編集部:医師が解雇されてしまう理由としては、問題行動がある等が考えられますが、1回の失敗であっても「解雇が正当なものである」と認められるものなのでしょうか。
舘野:解雇が正当であるかどうかは、最終的に裁判所が判断をします。
その際は、労働者である医師の能力不足や問題行動ととられる出来事があったとしても、それに対して十分な指導が行われたか、指導が行われても改善されないか等、様々な事情が考慮されます。
一方の使用者は、裁判において解雇の理由が客観的・合理的にみて認められるものであることを証明しなければなりません。
その負担の大きさからみても、使用者が労働者を解雇することのハードルはかなり高いものであるといえるでしょう。
加えて有期雇用契約の場合は、使用者はやむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で労働者を解雇することはできないこととされています(労働契約法第17条)。
そのため有期雇用契約における解雇の有効性については、無期雇用契約の場合よりさらに厳しく判断されます。
なお、使用者は就業規則に労働者を解雇できる場合を記載しておかなければならないことになっています。
アルバイトで働く場合であっても、勤務先の就業規則は確認しておくようにしましょう。
参照:厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
解雇では、少なくとも30日前の解雇予告が必要
編集部:もし客観的・合理的な理由がある場合には、突然の解雇も認められるのでしょうか。
舘野:いいえ、解雇にあたっては客観的・合理的な解雇の理由がある場合であっても、必ず事前に行われなければいけない手続きが決められています。
突然の解雇は、労働者の生活に非常に大きな影響を及ぼすものです。
そのため労働基準法第20条では、解雇にあたって必ず以下の手続きを踏むことが定められています。
・少なくとも30日前に解雇の予告をする。
(予告の日数が30日に満たない場合は、その不足日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要がある。)
・解雇の予告を行わない場合は、解雇と同時に30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う。
参照:厚生労働省「解雇には30日以上前の予告が必要です」
医師の都合で、アルバイトを「退職」するときのルール
編集部:続いて、労働者である医師の都合でアルバイトを辞職する場合のルールを教えて頂けますか?
労働者は、基本的にいつでも退職の申入れができる
舘野:労働者がアルバイトを辞めたい場合には、原則いつでも退職を申し出ることが可能です。
辞職を希望するときは、労働条件通知書内の「退職に関する事項」に記載されているルール(例:退職の1か月前までに申し出ること 等)に則って、使用者へ退職の申入れを行いましょう。
民法上は、退職の申入れから2週間経過すれば辞職できる
編集部:退職を申入れるタイミングについては、法律上はどのように定められているのでしょうか。
舘野:民法では あらかじめ契約期間が定められていない無期雇用契約においては、労働者は退職届を出すなど退職の意思表示から2週間経過すれば辞めることができるとされています。
ただし、急な退職はアルバイト先を困らせてしまいます。
特に医師の場合は、退職に伴う医療機関への影響も大きいのではと推察します。
編集部:そうですよね。
医師がアルバイトを辞めたい場合には、入職時の契約内容に従いつつ【できる限り早めに申入れを行う】こと。
加えて、アルバイト先の状況も考慮しながら 【時間的な余裕をもって退職日の相談を進める】ことが、円満にアルバイトを辞めるためのマナーといえそうですね。
有期雇用契約の場合は、原則 契約期間満了まで働く必要がある
舘野:なお有期雇用契約である場合には、やむを得ない事由がない限り 基本的に契約解除はできないとされていますので、注意が必要です(労働契約法第17条)。
例えば、入職時に「半年間」という期間を定めて雇用契約を締結している場合。
使用者と労働者の双方で定めた契約期間である「半年間」については、使用者の申し出によって労働者を辞めさせることもできませんし、労働者側からの辞職も原則できないことになっています。
有期雇用契約の場合も、契約期間途中での辞職が可能なケースもある
編集部:有期雇用契約の場合は、どのような事情があったとしても契約期間が終わるまでは辞職できないものなのでしょうか?
医師の場合、アルバイトで働き始めた後に「医局人事による異動で、転勤が決まってしまった」といったケースも起こり得ると考えられます。
舘野:あくまで、原則はできないというお話ですね。
実際には、労働者が就業規則や労働条件通知書内にある退職時のルール(例:退職の1か月前までに申し出ること 等)に則って辞職の意思表示を行い、使用者の合意が得られれば、契約期間終了前であっても辞職することは問題ないとされています。
実は、「有期雇用契約である場合には、やむを得ない事由がない限り契約解除は基本的にできない」という労働契約法第17条には、使用者側の記載のみにとどめられているのです。
よって、契約期間の途中であっても、双方で定めたルールに従って辞職をすることは問題ないと解釈されています。
編集部:なるほど。入職前に使用者と労働者の双方で定める「退職に関するルール」に則ることが、大きなポイントになるのですね。
舘野:そうですね。働き始めた後のご自身をしっかり守るためにも、入職時に医療機関から交付される労働条件通知書は事前にしっかりと内容を確認しておくことをお勧めします。
▼労働条件通知書のチェックポイントを確認するなら
以上、医師が円満にアルバイトを退職するために知っておきたいルールやマナーについて、特定社会保険労務士の舘野聡子先生にお話を伺いました。
トラブルを回避してスムーズにアルバイトを辞めるためには、アルバイト先の医療機関の負担が少しでも軽くなるように、慎重かつ計画的に手続きや相談をすすめることが大切です。
とはいえ、迷いや不安に直面することもあるかもしれません。
「Dr.アルなび」では、専任のコンサルタントが円満辞職に向けたサポートもいたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。